何か書き残していきたいから。

遠いあの頃。



忘れられた記憶に呼ばれて訪れたのは
喧騒から離れたあの丘。
懐かしいはずのその場所は
なんとなくよそよそしく。
昔見た大草原は
いつから見えなくなってしまったのか。

立ち止まって緑の匂いを吸い込む。
仰いだ空の青さと一本の飛行機雲に
目を細めて手を伸ばす。
あの頃よりも大きくなった体なのに
あの頃よりも天は遠く
届かぬ手は空を切る。

髪を乱す風を気持ち良いと思ったのはいつぶりか。
風が運ぶ匂いに気がついたのはいつぶりか。
飛ぶように纏っていた流れは
今では撫でるように過ぎていくだけ。
鳥と舞い、草花に語りかけるその姿は
あの頃と変わらないのに。

真っ直ぐだったあの頃は
確かに存在していたのに
もどかしいぐらいに遠い彼方。
求めても戻らない時間。
置き去りにされた思い出。
何故忘れていたのだろう。

葉の間から溢れる木漏れ日は
変わらず静かに輝いていて
掌に包み込もうとしても
触れる事すら叶わない。
光に照らされていた笑顔。
遠いあの頃。